05.おかえり











キミの時間が止まった……
ミランダさんからそう聞かされた瞬間、僕は自分の耳を疑った。




「……うそ……」




必ず僕らの後を追ってくるって言った。
僕がキミと残るって言っても、助けなんていらないって、
さっさと先に進めって、僕と一緒に残るなんてごめんだって……


ぶっきらぼうだけど、それは仲間を気遣うキミの不器用な愛情表現で。
誰にも負けない強さを誇るキミだから、
僕はそれを信じて先に進んだんだ。


なのに……キミが……死んだ……?
そんなこと……あるはずがない。
あってたまるもんか。


だって、キミは僕にとって誰よりも大切な存在なんだから……
死んだなんて……信じられない……
信じられるわけがない……






「……カ……ンダ……」





                  
ハート
僕はそのとき初めて、自分の心臓が潰れる音を聞いた。






















「……おい、アレンのやつ、まだあそこでじっとしてるのか?」
「うん。 任務の時意外はほとんど……
 きっと神田が帰ってくるのを……まだ……信じてるのね……」



その扉は、コムイさんが研究を重ねて作り出したドア。
向こう側が異次元空間と繋がっていて、
異次元空間に迷い込んだ相手が、
唯一今のこの次元へ帰ってこられる扉だ。


僕がノアに預けられた鍵をそのドアに差し込んでおけば、
いつか僕らが迷い込んだはずの空間に繋がるという。


以前自らその扉を開けて、向こうの世界へ行こうとしたことがあった。
だが、おそらく崩壊してしまったであろうその世界は
ただ真っ暗な闇が広がっているだけだった。
他者が侵入する事を頑なに拒み、入ろうとする僕の全身を電撃で制す。
微かな風に乗る血と焼け焦げた嫌な匂いが、
僕の神経を逆撫でした。


それから幾度となく扉を開け、向こうの世界へ行こうとした。
無論、僕が向こう側へ行く事など出来なかったわけだが、
それでも僕は、まだその暗闇の中に愛しい人がいる様な気がして
あきらめることができなかった。




「なんだかさぁ……辛いんよ。
 最近のアレンは見た目こそはそのままだけど、
 まるで抜け殻みたいで…
 顔は笑ってんだけど、目がもう死んじまってるんさ……」
「そうね……あの二人、いつも喧嘩ばかりしてたけど、
 それでもいつも互いの事を気にかけてて。
 何だか本当の兄弟っていうか……
 反発ばかりしてる恋人同士みたいだったから」
「俺だって辛いさ……
 ユウは兄弟みたいな、いや、それ以上の仲間だったからな」
「うん。 私だって……」




ラビとリナリーが僕を見ながら話している。
二人が心配してくれているのは痛いほどに良く判るし、
辛いのは僕だけじゃないって事も良く判ってる。


でも……それでも……僕は信じられないんだ。
彼がいなくなってしまったなんてこと……
どうしても、信じられない。


ねぇ、マナ。
マナが死んだ時も辛かったけど、
今の僕はあの時とは違うんだよ?。


身体の真ん中にぽっかりと大きな穴が空いてしまって、
何をしても、全部僕の身体を擦り抜けて行ってしまうんだ。
あんなに美味しかったジェリーの料理も、
リナリーが入れてくれたコーヒーも
まるで別人が食べているかのように身体の中をすり抜けていく。
生きているっていう実感が、全くしないんだ。
へんだよね。


神田の存在が、僕の中でこんなにも大きくなってしまってたなんて、
正直僕自身も驚きなんだけど、
失ってしまったかもしれないと知って、それを思い知るなんてね。
笑っちゃうでしょ?


そういえば、僕……彼にちゃんと好きだって……
言ってもらってないな。
それに僕も、ちゃんと気持ちを伝えていない気がする。
好きだよって、誰よりも愛しているって、まだ伝えてないよ。


だから目の前のドアが開いて、彼が帰ってきたら、
ちゃんと僕の気持ちを伝えようと思う。
そして、これからはもっと素直にキミと向き合おうと思う。


いっぱい、いっぱい、好きだって伝えて、
いっぱい、いっぱい、キスをして、抱き合って、
互いの想いを伝え合うんだ。


……だから……おねがい……帰って来てよ……
……ねぇ……神田……





















もう、何日ここでこうしているんだろう?
意識もおぼろげで、何も考えられなくなってきている気がする。
食事もきっと何日もしてない。
誰かが置いて言ってくれた食事のトレイにも、もう手をつける気力さえない。



「……僕も……このまま死んじゃうのかな?
 そしたら、このドアの向こうに行って……
 キミに会えるのかな……?」



だったらその方がいい。
キミに会えるんんだったら、このまま死んじゃってもいいかもしれない。
どうせ生きてたって、この先いい事なんかないんだから。



ボーっとした頭でそんなことを考えていると、
頬に冷たい感触を感じた。
この感触は覚えがある。
冷たいけど、でも心地よい手の感触。



そして、さらりとした黒髪が、僕の視野を塞いだ。



「しばらく見ねぇうちに、より一層モヤシみてぇになったな」
「……?!……」



これは……幻覚?
それとも……夢?



「呆けてんじゃねぇよ……このばぁか!」



辛らつな言葉が僕を現実へと引き戻す。
定まらない視覚をむりやりドアへ向けると、そこはいつの間にか空いていて、
向こう側には何故だか大きな月が浮かんでいた。
まんまるで、大きな、蒼い月。



「……カンダ……?」
「俺は昔からそう呼ばれてるが?」
「ほんとに、ほんとに……カンダ?」
「だからそうだって言ってんだろ?」



干乾びて水分さえ残っていないはずの僕の瞳から
大粒の涙がいくつもいくつも零れだす。
目の前に、夢にまで見ていた大好きな人がいる。



「カンダっ! お、おかえりなさいっ!」
「……ああ……」
「神田っ……神田っ……僕っ、僕っ……!」



涙声で上手く喋れないのが情けない。



「神田、僕、キミの事ずっと待ってました!」
「……ああ……」
「キミがいないと何も手につかなくて、どうにかなっちゃいそうでした……」
「……ああ……」
「キミのことが……大好きなんです……だから、だからっ……!」
「……あぁ……わかってた……」



神田は僕の耳元で呟いた。
暗い、暗い異次元空間で、いつも彼には僕の声が聞こえていたと。
そして、薄れゆく意識の中で、僕の声を頼りに此処まで来たのだと……



「約束したからな……必ず後を追うって……」
「そう……ですよ……
 けど……時間かかりすぎです……」
「……ああ……すまなかった……」
「夢じゃ……ないんですよね?」
「……ああ……」



ふわり。と、冷たい肌の感触が僕に触れる。
あの神田が、ゆっくりと僕を抱きしめてくれている。
懐かしい、大好きだったキミの髪の香りが鼻をくすぐる。


……もう、夢でも何でもいいや。


キミとこうしてあまた会えた事実。
これが現実でも夢でも、はたまた自分が死んで
あの世というところで再会したのだとしても、もうそんな事どうでもいい。



「大好きです……ずっとこのまま……
 もう一生、キミのそばを離れませんからね……」



抱きしめてくれる大きな背中に腕を回して力を込める。


……愛しています……


僕の小さな囁きに、神田が柔らかく微笑む。
その至福の瞬間に、時間を止めていた僕の心臓が動きだした気がした。











おかえりなさい。










自分が一番望んでいた言葉を愛しい人に紡げる幸せ。
それを心で噛み締めながら、
この言葉をこれからも言い続けられるようでありたいと、強く願った。

             
ホーム
僕が、永遠にキミの帰る場所でありますように……と……









                             〜FIN〜





≪あとがきと言う名の言い訳;≫

いやぁ〜やっちまいました( ̄へ ̄|||)
WJ本編で神田が死んでからというもの、正直スランプで
何もする気が起きなかったんです;
哀しい……というより、正直虚しすぎて、力が入らないカンジでしょうか?;
だからお題も自然と暗ぁ〜いモノになってしまいましたよ(><)
ごめんなさい;m(_ _ ;)m
けど、彼への愛は変わらない!!
アレンもきっと同じだよねっ!?
そう思いながら暴走する結果に……;
神田はいつかきっと帰ってきてくれる★
ダーリンカムバーック!!!
私はいつまでも待ってるよ!
この愛は不滅ですっっ・゜・(ノД`)・゜・。











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